
大腸
大腸
便秘とは、排便の回数が少ない、または排便が困難である状態を指します。1週間に3回以下の排便、または硬い便が続く場合を便秘と定義することが多いです。人によっては日常的に毎日排便があるため、それが途絶えると便秘と感じることもあります。便秘は、便が硬くて分割排便になることによる「残便感」や直腸内の残便を排出するために頻繁にトイレに行く必要がある「頻回便」、さらに微小の固形化した便の一部が肛門管に挟まり込んでお腹の中に戻らなくなってしまうことにより、強い「肛門部の閉塞感」を訴えるなどの症状を指します。要するに、便秘は排便回数だけではなく、体内の便がスッキリと排出できているかどうかが判断のポイントとなるのです。このため便秘の定義は個人の排便の習慣や感じる不快感によって異なる場合があります。
便秘が続くと、体に様々な影響が出てきます。
まず、腸内に便が滞留することで、有害な物質が腸壁から吸収されやすくなり、体全体の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。また、腸内の圧力が上昇し、腹痛や腹部の膨満感を感じることがあります。長期的な便秘は、痔や肛門裂傷の原因となることもあります。さらに、便秘が原因での頭痛や吐き気、肌荒れなどの症状が現れることもあります。
食べ物を食べると胃へと運ばれます。その後、胃液によってお粥状に消化され、小腸で体内に必要な栄養分と水分を吸収します。吸収しきれなかった残りカスは大腸へと運ばれ、水分が吸収されて固形の便になり、最終的に肛門より体外に排出されるのです。ですが、何らかの理由で大腸の動きが鈍いと便が長く留まって水分を吸収しすぎてしまいます。その結果、便が硬くなって排出しにくくなり、便秘となってしまいます。便秘の一般的な原因として、生活習慣の乱れが大きく関与しています。
その結果、筋力不足が原因で腹筋の力が弱くなり、便意を感じても上手く排便できなくなるケースもあるのです。
「デスクワークで長時間座っている」「少しの距離でも車に乗ることが多い」など、日常的に運動量が少ない人は筋力不足が便秘を引き起こしている可能性があります。このような場合は、腹筋を鍛えるトレーニングを習慣にすることがおすすめです。ウォーキング・ジョギング・ヨガなどの全身運動も腹筋を刺激するため、腹筋運動と併せて行う事で便秘改善に役立つでしょう。
さらに、ストレスや過度なダイエット、お腹の冷えや便意の我慢なども便秘の原因となることがあります。
また、完璧主義、せっかちなどの性格によってストレスが溜まることも多くあるので、体を動かしたり、ゆっくりと湯船につかったり、趣味や好きなことを楽しむ時間を作ったりするなど、うまくストレスを発散し、副交感神経を優位にするよう心がけましょう。
体に必要な栄養が不足すると血行不良や自律神経の乱れを引き起こして腸の働きを悪くすることがあるので、身体に負担がかかり過ぎるようなダイエットは避け、バランスの良い食事を摂りましょう。
また、腸の動きを制御する神経や筋肉の異常、腸の構造的な問題なども便秘の原因となることがあります。さらに、ある種の薬剤やサプリメントの摂取によって大腸のぜん動運動が低下し、便秘が起こることもあります。症状の改善には、もともとの病気の治療に合わせて医師と相談の上、必要があれば下剤を併用するのがよいでしょう。便秘の原因となる主な薬剤は、風邪薬・咳止め薬・気管支拡張剤・抗うつ薬・抗がん剤・パーキンソン病治療薬などです。
便秘には突然起きる「急性便秘」と長期間便秘の状態が続く「慢性便秘」があります。また、慢性便秘は大きく分けて、大腸の機能が悪くなることで起こる「機能性便秘」、大腸の形態的な変化によって起こる(または便の通過が物理的に妨げられる)「器質性便秘」のタイプがあります。
腸や直腸の働きが低下することで起こる便秘です。
「弛緩性便秘」「痙攣性便秘」「直腸性便秘」の3種類に分けられます。
ぜん動運動が低下して便を送り出す力が弱くなり、大腸の中に便が長く留まって過剰に水分が吸収されることで引き起こされる便秘です。
主な原因
運動不足による筋肉量の低下、食生活の乱れ(主に食物繊維不足)、過度なダイエット、水分不足
主な症状
お腹の張り、ガス溜まり、残便感、食欲低、肩こり、冷え、倦怠感、イライラなど
大腸の一部が痙攣してぜん動運動が不規則になり、スムーズに便が運ばれなくなることで起こる便秘です。腸の動きが悪くなるため、便秘と下痢を交互に繰り返すこともあります。
主な原因
ストレス(環境の変化、過敏性腸症候群)
主な症状
残便感、便が出にくい、コロコロとした小さな便が出る、食後におなかが痛くなるなど
大腸から直腸に便が送られると神経刺激が大脳に伝わり、便意を感じる排便反射が起きます。「直腸性便秘」は神経が鈍くなることで直腸に便が送られても便意を感じなくなり、腸内に便が長くとどまって起こる便秘です。
主な原因
便意の我慢、ウォシュレットにより肛門の神経が鈍ることによるもの、浣腸の乱用
主な症状
残便感がある、硬くて大きな便が出る、便が出かかっているのに出ない
腫瘍、炎症や癒着なでで腸管が狭くなるなど、物理的な障害によって便が通りにくくなって起こる便秘です。女性の場合、筋腫が腸管を圧迫する子宮筋腫や直腸が膣の方にせり出す直腸瘤により、排便しにくい状態になって器質性便秘を引き起こすこともあります。器質性便秘の改善には、原因となっている病気の治療が必要です。
便秘の主な症状としては、排便の回数が減少する、便が硬くなる、排便時の痛みや不完全感、腹部の膨満感や痛みなどが挙げられます。これらの症状に伴い、体の変化としては、腹部が硬く膨れ上がる、ガスの排出が多くなる、口臭や体臭が気になる、肌荒れや吹き出物が出るなどの変化が見られることがあります。
便秘が長期間続くと、さらに重篤な症状が現れることがあります。
例えば、痔や肛門裂傷の発症、腸閉塞のリスクが高まる、便秘性腹痛や腸の動きが乱れるなどの症状が出ることがあります。
また、腸の中には多くの細菌が棲みついており、体に良い働きをする「善玉菌」・体に悪い働きをする「悪玉菌」・善玉菌とも悪玉菌ともいえない「日和見菌」の3種類に大別されます。
便秘が改善されないと便に含まれる未消化物をエサにして悪玉菌が増えるため、腸内環境が悪化しやすくなります。悪玉菌が増えることで、さまざまな消化器疾患のリスクも高まります。腸内環境が悪化すると腸のぜん動運動を促す働きや悪玉菌の増殖を抑える働きをする善玉菌が減ります。
そのため、腸の動きが悪くなったり、腸内の有害物質を増加させ、さらに便秘を悪化させたりしてしまうのです。ストレス・運動不足・過度なダイエット・食生活の乱れ・水分不足・お腹の冷えはいずれにおいても腸内細菌叢のバランスの乱れを引き起こす要因となりますので、食事や生活習慣の改善で便秘解消を目指しましょう。また、腸内環境を整えたいときは、善玉菌を補うプロバイオティクス(乳酸菌)や善玉菌のエサになり善玉菌を育ててくれるプレバイオティクス(食物繊維)などを含む胃腸薬を服用して腸内環境を整えるのも方法のひとつです。
便秘解消に効果的な食べ物としては、食物繊維が豊富なものが挙げられます。また、野菜には消化吸収されずに大腸まで届く水溶性食物繊維・不溶性食物繊維が含まれており、それぞれの食物繊維には便秘解消につながる特徴があります。
水に溶けてゲル状になる性質があり、便を柔らかくして排便を促す効果が期待できます。水分を吸収して膨らむことで腸のぜん動運動を促したり、便のカサを増やしたりして、排便を促す効果が期待できます。
穀物 | 玄米ごはん・ライ麦パン・オートミールなど |
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果物 | キウイフルーツ・プルーン |
海藻類 | わかめ・ひじき・めかぶなど |
芋類 | さつまいも・こんにゃく・山芋など |
きのこ類 | きくらげ・干ししいたけ・なめこなど |
ドライフルーツ | 柿・ブルーベリー・なつめ・いちじくなど |
豆類 | 大豆・あずき・いんげん豆など |
また、ヨーグルトや納豆などの発酵食品は、腸内の善玉菌を増やして便秘解消に役立ちます。飲み物としては、水やお茶、緑茶、ウーロン茶などの摂取を心がけると良いでしょう。
便秘を予防するための食生活のポイントとしては、以下のようなことが挙げられます。
便秘と吐き気は一見関連がないように思えますが、実際には深い関連があります。便秘が長引くと、腸内に便が滞留し、その結果として腸内のガスが増加します。このガスが胃に圧迫感を与えることで、吐き気を引き起こすことがあります。また、便秘により腸内の有害物質が増加すると、これが体全体に影響を及ぼし、吐き気や頭痛などの症状を引き起こすことが考えられます。便秘に起因する吐き気を和らげるための方法としては、以下のような対処法が挙げられます。便秘そのものを解消することが最も効果的です。
食物繊維を多く含む食事や十分な水分摂取、適度な運動を心がけることで、便秘を予防・改善することができます。吐き気を感じた際は、深呼吸をすることで、吐き気を和らげることができます。生姜やミントのティーは、吐き気を和らげる効果があると言われています。適量を摂取することで、吐き気の緩和が期待できます。重度の吐き気や持続的な吐き気がある場合は、医師の診察を受けることをおすすめします。
食事をすると、胃や十二指腸では、食べ物を細かくする消化が行われます。口からは飲み水や食事に含まれる水分合わせて3L、それを消化するための胃液や胆汁などの消化液6Lと合わせると、9Lにもなる水分が毎日腸に流れ込みます。小腸では、食べ物の栄養と、体内に流れ込む9Lの水のうち7L が吸収されます。大腸に届く頃には残り2Lとなっていますが、それでもまだ便とはいえない、水のような状態です。大腸で残りの2Lの水分も吸収され、水分の99%が吸収された結果、便が形作られ排出されます。
健康な便は、水分が60%~70%ほどです。80~90%と水分が増えると便が柔らかくなり軟便、水分が90%を超えると下痢となります。下痢を起こすと便に含まれる水分が多いだけではなく、トイレに行く回数が増えます。
1日に数回から数10回にわたって便意をもよおすものまでありますが、2週間以内で治まるものがほとんどです。また、急性の下痢は、食中毒などによる感染性のものと暴飲暴食などによる非感染性のものに分かれます。
1日に数回程度でも3週間以上続くものとなり、機能性の下痢とそれ以外に分けられます。機能性の下痢は生活習慣やストレスが原因となって起こるもので、過敏性腸症候群の場合もあります(以下で詳しく説明します)。それ以外のものとしては、病気や薬が原因として考えられます。
腸炎ビブリオ
魚介類の刺身や寿司などが原因で、食後4~96時間に激しい下痢や腹痛があります。血便がみられる事もあります。
サルモネラ
卵とその加工品や、食肉(特に内蔵類)を生で食べることが原因となります。食後半日から2日間程度で腹痛、下痢、発熱、嘔吐がみられます。
調理する人や調理器具から他の食品にサルモネラがつくことで、珍味類など各種食品が原因となることもあります。
黄色ブドウ球菌
おにぎりやいなり寿司が原因になることが多いです。食後1~6時間で下痢、腹痛、嘔吐が起こります。手に傷がある場合には菌が潜んでいることがあり、注意が必要です。加熱などの処理を行うと菌は死滅しますが、食中毒の原因となる毒素は分解されません。
カンピロバクター
手に傷がある場合には菌が潜んでいることがあり、注意が必要です。加熱などの処理を行うと菌は死滅しますが、食中毒の原因となる毒素は分解されません。
腸管出血性大腸菌(O-157)
加熱処理されていない肉や野菜などで起きやすく、食後12~60時間で激しい下痢、腹痛と下血などがみられ、死亡する例もあります。
ボツリヌス菌
長期保存する食品が原因となります。食後8~36時間で下痢、嘔吐とともに麻痺などの神経症状が起こり死亡する例もあります。
セレウス菌
あらゆる食品が原因となり、食後8~16時間で下痢や腹痛が起きます。
コレラ菌
生の食材などが原因となり、食後2~3日で激しい下痢と嘔吐が起きます。大量の下痢便が出ることで脱水症状を起こし死亡する例もあります。
ノロウイルス
二枚貝を生や加熱不足の状態で食べた事が原因となり、食後1~2日で激しい下痢や嘔吐、腹痛などが起こります。抵抗力の弱い人では死亡することがあります。
ロタウイルス
乳幼児がいる家庭で注意してほしいのが、ロタウイルスです。ウイルスに汚染された食品や、感染者の便などに触れた手を介しての接触感染が主な感染経路です。2~4日の潜伏期間の後、下痢(激しい場合は白色に)と嘔吐が繰り返し起こります。
問診で便の色や状態、匂い、頻度、下痢を起こす原因についてお伺いします。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患をはじめとする大腸疾患が疑われる場合には、大腸カメラ検査を行って特有の病変がないかを確認し、疑わしい部分の組織を採取して病理検査を行い、確定診断します。当院では、内視鏡検査をはじめ専門の医師が、最新鋭の内視鏡システムを使って精緻な大腸カメラ検査を行っています。
鎮静剤を使って眠っているようなリラックス状態で検査を受けていただけます。
脱水を起こさないよう水分摂取量などを確認し、必要があれば点滴を行います。疾患によって生じている下痢の場合は、疾患の治療を行います。暴飲暴食などによる一過性の下痢では、水分をしっかり補給する、消化しやすく腸に負担が少ないものを控えめに食べる、足腰を冷やさないことが重要です。
血便は消化管のどこかから出血して起こります。胃や十二指腸からの出血では黒っぽい便になりますし、肛門に近い場所から出血している場合には便に鮮血が付着しているように見えます。また、見た目ではわからないほど微量な血液が含まれている場合も血便になります。これは便潜血検査で陽性になってはじめてわかる血便です。肉眼でわかる血便があったら、すぐに消化器科を受診してください。その際には、どんな血便があったのかを観察して、問診で医師に伝えてください。また、便潜血検査の陽性が出た場合も、前がん病変の大腸ポリープの段階で切除して大腸がん予防につなげられる可能性があります。
真っ赤で鮮やかな色の出血で、一目瞭然で血便とわかるものです。直腸、おしりなど、肛門から比較的近いところからの出血や、憩室出血などで腸から大量に出血している場合に見られます。
便が大腸を通る消化途中のどこかから出血が起こっていて、肛門から排出されるまである程度時間がかかっている場合には、鮮血便よりも暗い血液が混じった便になります。
ゼリー状の血液と粘液を伴う便です。感染性腸炎や炎症性腸疾患による場合が多く、下痢や腹痛などの症状を伴っている場合があります。
真っ黒で液体の便で、胃・十二指腸などの出血で起こっている場合にみられます。消化とともに血液の鉄分が吸収されることで黒い色の便になります。鉄剤を内服している場合にもこのような便が見られます。
目で見てもわからない少量の血が混じっている状態です。便潜血検査で見つけることができます。
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